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深海エビが持つ“光を見て感じる力”の秘密を解明 ― 可視光に反応する新規オプシンの発見 ―

太陽光の届かない深海熱水噴出口周辺には、生物の発光や高温による黒体放射によって、わずかに可視光(青〜赤)が存在します。こうした暗黒の世界に生息する深海エビ Rimicaris hybisae(リミカリス・ハイビサエ)は、背中に位置する特異な「背側眼」によってこの微弱な光を感知していると考えられてきましたが、その分子メカニズムは長らく不明でした。
本研究では、R. hybisae の眼や脳のトランスクリプトーム解析を行い、6種類のオプシン遺伝子を同定しました。これには、通常視覚機能を担うと考えられているGq共役型オプシンが3種類、非視覚機能を担うと考えられているOpn3、Opn5、ペロプシンが含まれています。これら全ては可視光に応答し、光情報を細胞内の情報へと変換する役割を持つことが分かりました。
特に注目すべきは、通常は紫外線に反応すると考えられていたOpn5が、R. hybisae では青色光に応答するよう進化していた点です。この可視光感受性は、分子内の「シッフ塩基」と呼ばれる構造を安定化するカウンターイオンが、他のオプシンとは異なりAsp83という位置に存在することによって実現されていました。
さらに、他の浅海性甲殻類でも同様の「可視光型Opn5」が見つかっており、この仕組みは深海に限らず甲殻類全体に共通する可能性があります。本研究は、深海という極限環境に適応した生物の「光を見る・感じる力」の進化的背景を明らかにしたものであり、視覚研究や光応答性タンパク質の応用に新たな視点を提供します。
*解析に用いた個体は、有人潜水調査船「しんかい6500」を用いて、カリブ海の2つの海底熱水噴出域、Beebe(深度4967 m)およびVon Damm(深度2295 m)から採取されました。採取は、海洋研究開発機構(JAMSTEC)が運用する調査船「よこすか」による2013年6月のYK13-05航海中に実施されたものです。
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0021925825021416?via%3Dihub